妄想占い・人事異動

妄想劇場その1
「占いの部屋」編
人事異動

外からそっと覗くと、丸テーブルに紫のクロスがかかっていて、何かカードらしきものが置いてある。
ここでいいのかな?

ドアを開けるとラベンダー色のカーディガンを羽織ったおばあさんがこちらを見た。
「いらっしゃい」優しい声がした。
中に入り椅子に座った。失礼かと思ったが周りを見回した。
「何にもないでしょう」
「はい、いいえ」慌てて答え二人で笑った。
「今日はご相談かしら」


A子は事務系の仕事をして三年目になる。仕事はかなり出来る方だと自信あり。それでも先輩のお局さまにはたびたび仕事以外でも嫌みを言われる。その他には不満のない良い職場だ。

日課長に呼ばれた。
「隣町の支店の業績が良好で人手が足りない。仕事の出来る人を回して欲しいと言われてる。この支店から二人異動して貰う事が決まった。君に行ってもらいたいのだがどうだろう。通勤距離は変わらないと思うよ。返事は今週中に頼む。」

はぁ、人事異動ねぇ。考えたこともなかったわ。まさか私とは。仕事内容は分かっているから困らないけど・・・お局と離れるチャンスかも知れない。

考えながら歩いていたら「占いの部屋」と書いた看板の前に立っていた。


A子は正直に話した。
占いのおばあさんは「あなたはどうしたいの?」
「出来れば残りたいと思いますが、迷っています。」
「ではカードに聞いてみましょうね」
そう言ってカードをかき混ぜ始めた。どうやらそれをシャッフルと呼ぶらしい。

カードをまとめると、ではこちらを今の所に残る、こちらが異動すると決めます。結果はどうなるかみますよ。
カードを1枚ずつ手際よく並べていく。

「現在は問題なし。
残った場合、仕事面では支障なく人間関係も良好ですね。
では異動先は、仕事面では問題ないですが、あ、ここにもお局さまがいるかも。人間関係ぎくしゃくするかも知れません。それも初めだけですかね。職場環境は良さそうですから、将来的には順調に進みそうですよ。
カードはこう出ましたが、決めるのはあなたです。」

お礼を言って占いの部屋を後にした。

A子は決めた。明日課長に言おう。
「これからも課長の下で働きたい。だからここに残ります」と。


それから二週間後、A子はチョコレートの入った小さな箱を持って訪ねて来た。
「この間はありがとうございました。お局と他の部署一人の異動が決まりました。」


おばあさんにとって嬉しい報告です。
誰かのお役に立つのが何よりの喜びでしたから。