子どもの頃のこと

まだ私たち姉弟が小学校生低学年だった頃のこと。うちにお手伝いのおばあさんが来てくれた。父が知り合いに頼んで探してもらったと聞く。ずっと手伝うのではなく母の都合に合わせて短期間だけどね。

明日手伝いのおばあさんが来るから、と父から聞かされた時私たちは緊張しておとなしくなった。翌日学校から帰ると知らないおばあさんがいた。母が「松岡のおばあさん」と紹介した。
年はいくつか知らないがひとり暮らしをしていると後から聞いた。だから泊まりで来てくれた。
綺麗好きで働き者らしかった。
父は会社員で母は専業主婦、少しだけ自家菜園があったけど忙しくはない。母があまり丈夫ではなかったのか、おばあさんに手伝いを頼んでいた。

始めは緊張していた私たちだけど、松岡のおばあさんは怖くないと分かるといつものやんちゃぶりが出る。
おばあさんが何回か来てくれるうちにすっかり仲良くなった。

ある時、おばあさんは竹箒で庭を掃除していた。そこへ学校から帰った弟が玄関を開け、ランドセルを放り込みそのまま遊びに行こうとした。それを見たおばあさんが「ランドセルを片付けて」弟は「帰ってから」と言って行こうとしたらおばあさんはダメって、弟が逃げたらおばあさんは箒を持ったまま追いかけた。弟は逃げ足が速い。そして遊びから帰るとおばあさんは追いかけたことなんかすっかり忘れたようで怒られなかった。と弟が話してくれた時、箒を持って追いかけるおばあさんを想像して私は大笑いした。おばあさんは躾にも厳しかった。やんちゃ坊主はその後もよく叱られた。それなのにおばあさんに懐いて邪魔をしては叱られたらしい。おばあさんは厳しさもあったけど、温かみのある愛情深い素晴らしい人だった。本当のおばあさんみたいに私たちは懐いた。他人なのに愛情たっぷり注いでくれたから私たちは幸せだった。

私たちが中学生の時、父が「もう松岡のおばあさんを頼めなくなった」とだけ言った。どうしたのかと姉弟は思ったが、母に聞いたら亡くなったから。もう会えないのかと思ったら寂しさでいっぱいになった。隣を見たらいつも陽気なやんちゃ坊主もシュンとしてた。父母が落ち着いてから聞いた話だが、おばあさんは我が家には喜んで来てくれた。気に入らない家にはお断りしていたほどはっきりした人だった。子どもが懐いたから我が家に来てくれただけじゃないと思う。弟は人なつこい子どもだったけど、私は反対になかなか人慣れしない。それでもおばあさんには懐いたから、おばあさんは惜しげもなく愛情を向けてくれたと今でも感謝している。本当の家族のように過ごした。父は誰にでもいい顔するタイプではないしどちらかと言うと気難しい、母は出しゃばりではないしお喋りや噂好きな人でもない。だからおばあさんとは相性良かったんだよね。おばあさんがいなくなって寂しかったのは、本当は父母かも知れない。

こんな昔のことなんだけど、あの時の私の気持ちがタロットで聞けるといいなぁなんて思うこの頃である。